言うは易し行うは難し~巨大地震に加えて免震建物を待ち受ける試練

非日常譚
非日常譚
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脱サラしてプータローに転身して以降、かつての自身の専門領域に首を突っ込む気は皆無でした。

だがしかし、2026年7月に発生した熊本地震の後、その古巣周辺がどうも騒がしいのです。

新聞に「熊本地震で起きた免震「世界初」の被害 破断・衝突…懸念が現実に」との見出しが躍ります。

実はこう見えても私、いちおう建物の耐震技術については少しウルサくて専門は免震構造。

建物と地面の間に免震ゴムを挟んで建物がゆっくり揺れるようにすることで地震の衝撃を和らげる技術、といえば雰囲気伝わります?

引退した身で口出す資格はない一方、居ても立ってもいられぬ気分が制御不能なアンビバレンス。

本日は柄にもなく真面目な話、どうもすいません。

KEYWORDS

積層ゴム破断、擁壁衝突、想定外地震、想定外を想定せよ、失敗学、大手メディア、マスコミ

一次情報によりますと

免震「世界初」の被害。破断。衝突。

さすが、危機を煽って人びとを不安にさせることが生業の大手マスコミの記事。

物騒でセンセーショナルなことばが見出しにこれでもかとばかり並んでいます。

かつて私がドップリ漬かっていた世界に一体全体何が起きたというのでしょうか。

こういう時はマスコミの記事ではなく、一次情報や客観的事実に触れるのが鉄則。

専門家による調査結果にササッと目を通します。

熊本県内のとある市庁舎。

2016年の地震を糧に新築された最新の免震建物が2026年の地震で大きな被害を受けました。

今や門外漢ですが、勝手に被害をダイジェスト。

  • 建物本体
    被害軽微で耐震安全性にも日常業務にも問題なし
  • 建物周囲
    被害大で建物への出入りに支障ありも、修復可能
  • 免震機構
    免震ゴム破断、建物が擁壁に衝突、ともに世界初
    修復は不可能ではないが、技術・費用両面で厳しい

先の記事は誇張ではなく事実でした。

伏してお詫びいたします。m(__)m

しかし、胸がズキズキ心臓バクバク。

恐れていたことが本当に起きました。

これはまさしく私が学位論文で指摘し、対策を提案した事象に相違ありません。

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自然現象と人間の思惑

手前味噌ですが、2018年の私の学位論文の序論から抜粋します。

  • 免震構造は建物を地震被害から守る上で最良の技術
  • ただし、何ら弱点や欠点のない完全な技術ではない
  • 想定を超える揺れに対して脆弱性が露見する恐れあり
  • 建物の限界状態を設計時に想定し対処することが重要

建築基準法上は、定められた地震に対する建物の安全性を設計の際に担保しておけば十分。

だがしかし、自然現象は人間のそんな勝手な思惑などどこ吹く風、いや、どこ揺らす大地。

法律で決めたからといって、その大きさを超える地震が発生しない保証なんてありません。

そこで♬万が一 金田一♬超巨大地震が来たときのことまで考えておくのが一流の設計者。

近くの地震計記録によれば、本市庁舎が法律の定めを超える巨大地震に襲われたのは確実。

私の知る限り、こんな地震を受ければ普通の免震装置は壊れます。これは紛れもない事実。

設計者が事前に検討し建築主に説明していたのならば、何も後ろめたいことはありません。

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言うは易し行うは難し

2011年東日本大震災をきっかけに「想定外を想定せよ」との言い回しが流行しました。

このことばを文字通りに捉えると、想定できないから「想定外」なのであって、それを想定せよとは禅問答かよ、と泣き言を言いたくなります。

そうではなくて、法律を守りさえすればよしとせずに最悪の場合にどうなるかまで深く真摯に考えるべき、という至極まっとうな戒めなのです。

本件に照らすと、「史上最悪の地震が来ても建物の安全を確保しろ」なんて無茶振りではありません。

「これくらいの巨大地震なら建物はこれくらい壊れます」と定量的に示せ、ということです。

だがしかし、これが「言うは易し行うは難し」。

課題はいろいろありますが、大きく分けて3つ。

  1. 技術的課題
    極悪の揺れに曝される建物の挙動は実験で確認できまい
    解析は人間の想像を超える結果までは示してはくれまい
  2. 経済的課題
    発生確率が限りなく0に近い事象に対策費用は出せまい
    公共施設は税金の無駄遣いと糾弾されて議会を通るまい
  3. 心理的課題
    冷徹な技術的事実は建築主や世間に聞く耳を持たれまい
    それが証拠に「原発は100%安全」でないと許されまい

技術・経済的課題は辛うじてなんとかなります。

建築主と設計者が建物の耐震性についてトコトン話し合って合意すればよいのです。

設計者は技術的に可能な範囲とそのコストを正確に示し、建築主はリスクとコストを天秤にかけて妥協点を決定。

本市庁舎でこうした議論があったかどうか知る由はありませんが、部外者がとやかく言う筋合いはありますまい。

地震の規模によっては免震装置が損傷すると合意できていたならば、今後の対応を粛々と話し合って進めるだけ。

問題は心理的側面、ハッキリ言うならば大手メディアの動向。

私は基本的に彼らの傍若無人な振る舞いを信用していません。

自称「社会の公器」は種火に油を注いで煽ぐ炎上商法の名手。

いくら合意できていたとしても、建築主と設計者は一枚岩ではなく、ちょっとした見解の相違くらいはあるもの。

狡猾な大手メディアはそうした僅かな綻びさえ見逃しません。

最悪の修羅場さえ容易に想像できますが、文字にはしません。

なんとなれば、我が国は「言霊」の国。

かつて人生を捧げた世界が火ダルマにされる姿は見たくない。

今後のマスコミの動向を静かに遠巻きに注視していくつもり。

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