千葉・東京在住時、関西人の私の帰郷に際していつも仁王の如く立ちはだかったのが静岡県。
東西に異様に長く、新幹線ならともかくクルマだと「いい加減に許してくれ~」となります。
そんな訳でこれまで静岡県は伊豆半島を除きほぼほぼ苦難とともに通過するだけの地でした。
しかし、相模湾に面する地に移住した今や駿河湾に面する地にお隣さんのような親近感を覚えます。
ちょっくら行ってみようじゃないか静岡市。
ポストモダン、過剰デザイン、ロボット、潜水艦、宇宙船、2001年宇宙の旅、未知との遭遇
訪問記
モダニズム建築のお手本のような静岡市清水文化会館(愛称マリナート)からクルマで20分ほど。
ポストモダン建築の典型例かもしれぬ静岡県コンベンションアーツセンター(愛称グランシップ)に。
JR東静岡駅前に広がるだだっ広い駐車場にクルマを停めると、富士山をバックに目的の建物がそそり立っているのが見えます。

なんじゃこの形? ロボットかよ。
今にも立ち上ったり変形したりしそうで、私の永遠のガキんちょ心をくすぐります。
グルッと一周して外観を観察。


静岡県らしく東西に長い建物を突っ切り反対側に回ると、一転して船(というか潜水艦)のような形。
なるほど、だから愛称グランシップ。デカい船。
ロボ側に戻ってきました。



いかにも高価な石張りの壁、戦闘機でも出てきそうな格納庫、真下に来たら押し潰す気満々のドッスン、とスゴい威圧感です。
同じ後ろの正面でも、スッピン仕上げのマリナートと対極のド派手な化粧が強烈に自己主張。
「形態は機能に従う」が美徳のモダニズム建築に真っ向勝負! 外観から内部の機能が想像できません。
1999年完成ゆえバブル余波でまだ予算潤沢だったのかも。
建築業界の景気は世間から数年遅れるので。
失われた30年を経た今となってはバカ騒ぎに浮かれた世紀末日本の墓石に見えなくもない。
この調子だと内部もイケイケ・ドンドンのバブリー仕上げかなっと妙な期待に胸が膨らみます。
豪華石張りのエントランスから中へ。


あれれ? えらく地味です。拍子抜け。
ド派手ロボット船の外観に対して中は随分と淡泊。
内装の設計に入ったところで予算が尽きたんかな。
これだけ内外観が対象的な建物も珍しい。
しか~し! これは設計者が仕掛けた巧妙な罠かもしれぬと感じるまでそう時間はかかりません。

地味なエントランスの右手にある中ホールのホワイエに目を見張ります。
ザハ・ハディド建築かのような白く艶めかしい壁に、内外格差にズッこけた陰鬱気分が吹っ飛びます。
そしてこの後、目くるめく超絶デザインの洪水に圧倒されることに。


ハイライトは地味なエントランスの正面にあるエスカレーターを乗り継いだ先の3階に潜んでいました。


まるで宇宙船。スペースシップ。
人っ子一人いないことも相俟って強烈インパクト。
もうゴタゴタ理屈抜きにかっこエエやん!
私の永遠のガキんちょ魂が踊り狂います。
このエスカレーターを上がらない手はない。
その先には『2001年宇宙の旅』のHAL9000でも鎮座するのでしょうか。

辿り着いた先は交流ホール。
誰と交流するのって『未知との遭遇』のUFOでやってきた宇宙人とでしょうか。


さて、1つの建物でこれだけ気分がアップダウンしたのは初めてかも。ちょっと記憶にありません。
変形ロボか潜水艦のような外観に心躍るも、バブルのバカ騒ぎが思い出されて苦々しい気持ちに。
地味で平凡な四角いエントランスホールを見て、途中で予算が尽きた公共事業の悲哀と末路を想像。
かと思いきや、予算タップリやりたい放題好き放題に設計された未来デザインの洪水に圧倒される。
誰や、こんなふざけた建築を設計したのは!?
故・磯崎新さん。
建築界の「知の巨人」と称賛されるだけあります。
以下、私の勝手な想像。
当初は有り余る予算を提示されるも、遅れて来た公共事業のバブル崩壊余波で設計中に予算削減。
要所は未来デザインで栄え建築に仕上げつつ、責任の所在があいまいな公共建築の在り方を批判。
しかし多くは語らぬ。分かる人だけ分かりゃいい、ってか?
まんまと磯崎さんの術中にはまったかなっ。知らんけど。
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基本情報
静岡県コンベンションアーツセンター(グランシップ)
設計:磯崎新
竣工:1999年
場所:静岡県静岡市
訪問:2025年11月
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