おめかし
2026年2月7日
指折り数えて待ちに待った日がやって来た。
今日は例の夫婦が吾輩を迎えに来る日である。
朝からソワソワと待っていると、若くてかわヨい女子がやって来て吾輩をヒョイと抱え上げた。
いよいよ旅立ちのときが来たのかと思いきや、なんだか様子がおかしい。
他に誰もいない未知の場所に連れて行かれた。
ここは幾多の子犬を恐怖のズンドコに突き落としてきたと噂されるシャワー室に違いあるまい。
自分でも薄々気付いてはいたが、生まれて2ヶ月このかた一度も風呂に入ったことのない吾輩はやはりホンノリと臭うようだ。
果たして身構える隙もなく、瞬く間に頭部を除く全身にお湯をかけられ泡まみれにされた。
しかし、噂ほどのことはない。
シャワーもシャンプーも恐るるに足らず。
「震えてるよ?」との批判は当たらない。
これはいわゆる武者震い。
旅立ちのときが近づいている証であり、これが心躍らずにいられようか。いや、いられまい。
轟音を上げて唸る突風に曝されたときは恐ろしかったが。
最後にブラシで毛並みを整えられ、これにておめかし完了。
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旅へ出立
晴れてよそ行きの装いとなった吾輩、今度は大勢の人間で賑わう場所に移される。
ここは連行されれば最後、二度と母や兄弟姉妹と会うことはないと噂される事務室に違いない。
辺りを見回してすぐに例の夫婦を発見。
ニコニコ満面の笑みで吾輩を見つめている。
ところで、この夫婦を何と呼ぶか問題だが・・・
これから彼らの庇護のもとで生活することに鑑み、ここは敬意を込めて「父上・母上」としておこう。
父上、母上、よろしく頼む。
吾輩を抱きかかえた母上は少し緊張しているようで、同じく緊張気味の父上先導のもと事務所の外へ。
寒い。初めて見る雪が舞っている。
母上に抱かれたままクルマの助手席に乗り込む。
結局、家族への別れのあいさつは叶わぬまま。
彼らの顔を見ると寂しさがこみ上げてくるに違いないので、きっとこれでよいのだろう。
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君の名は
ブリーダーの見送りを受け、父上の運転で出発。
もちろんクルマでの移動も初体験である。
吾輩がこれから住むことになる家まで1時間ほどの旅となるようだ。
車内で見るもの触れるもの全てが初めてであり、興奮を隠すことなど到底できやしない。
母上の膝の上でおとなしくしていられようはずもなく、興味の赴くままソワソワと動き続ける。
困り果てた様子の二人がしきりに呼びかける。
なのちゃん
なのさん
なのさま
なの
いずれも吾輩の名のようだが、どれが正式なものなのか皆目見当が付かない。
まあよい。
いちばん短くて覚えやすい「なの」としておこう。
ところで、これから自分を何と呼ぶか問題だが・・・
このまま吾輩で通してもよいのだが、日本一有名かもしれない猫の二番煎じと誹られるのも癪である。
ここは1つせっかく授かった「なの」を採用。
幼い女子が一人称に自身の名前を使うのは恥ずかしいことではあるまい。
さて、楽しかったクルマの旅も終わり家に到着。

あらら。檻に閉じ込められた。
床には細く裂いた新聞紙が敷き詰められ、生家と同じような状態が保たれている。
オシッコとウンチをどこですればよいのか分からないが、生家では新聞紙の上ならどこでも可であったから、ここもきっとそういうことなのだろう。
とにかく今日は初体験尽くしで疲れたので、タオルを枕に一休みすることにする。
それではみなさま、ごめん遊ばせ。

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