ここ数回の建築徘徊は美術館づいています。
本日はできたてホヤホヤで流行最先端の案件。
設計したのは”建築界のノーベル賞”と言われるプリツカー賞を受賞した建築家の坂茂さん。
さかしげさんではありません。
ばんしげるさんです。はいフルネームです。
坂さんがやりたい放題好き放題に設計した(かもしれない)本作はユネスコ「世界で最も美しい美術館」最優秀賞(ベルサイユ賞)を受賞。
前回ご紹介した帝王・丹下健三さん設計の重厚長大な美術館の対極に位置する軽やかな建築です。
両者を比べることで、この3~40年で美術館建築に対する考え方が大きく変化したことが手に取るように分かる(かもしれない)でしょう。
訪問記
山口県の新岩国駅からレンタカーを走らせること約30分、広島県西端の瀬戸内海に面する大竹市へ。
海に面した分かりやすい場所のはずですが、不案内な看板のおかげで辿り着くのに苦労します。
ようやく隣の公園駐車場にクルマを停めて敷地のゲートに向かいます。
敷地内に駐車場あるやん。
分かりにくいったらありゃしない。
緩やかな坂(さか。ばんに非ず)を登って入口へ。
楕円形のエントランス棟は全面ミラーガラス張り。
絶好の快晴の中、鏡に映り込んだ周囲の景色に溶け込みながらも強烈な存在感を放つ離れ業を披露。
おや? 中は一転木造のようです。
ヒノキの集成材でできた2本の柱と格子状の梁が屋根全体を軽やかに支える美しい構造。
外周部には鉄骨柱もありますが、こっそりさりげなく目立たぬよう配置されています。
外から見ると鏡、中から見ると透明ガラスの壁。
マジックミラー(和製英語)ってやつでしょうか。
よからぬ考えをお持ちの御仁なら警察の取調室や風俗店を思い起こしそうな素材でさえもオサレに爽やかに使いこなす坂さん。
ここに坂茂最強伝説が誕生したのかもしれません。
入館料を払って展示棟へ。
両サイドをガラスで囲まれた細長い通路には坂さんの代名詞たる紙管製の椅子。
宇宙船や電車の連結部を思わせる通路から展示室に入ると、宇宙人っぽい妙なヤツらがお出迎え。
キモかわシュールな作品に思わず苦笑いします。
それにしても変わった美術館です。
「トンネル連結部を抜けると雪国真っ白な四角い展示室であった」を繰り返すこと何回だっけ?忘れましたが、ガラス壁の細長い通路に戻ってきました。
外の空気を吸いたくなり、海に面する屋外へ。
目に入るは水盤に浮かぶカラフルな四角い箱たち。
箱1つ1つが展示室なのね。
こんな美術館は初めて体験します。
細長い通路を隔てた反対側にある企画展示室の屋上に出られるようなので行ってみます。
緩やかなスロープを登って海側を見下ろすと、カラフルな四角い箱たちが全部で8つ。
この箱たちの壁って何でできているんでしょう。
色合いからはアクリルなどの樹脂系に見えますが、湿気が大敵のはずの美術品は大丈夫でしょうか。
まっ、いいや。
(よくない。カラーガラス by 美術館HP)
私にはこの展示室そのものこそが本美術館最大の魅力的な芸術品に感じられます。
という訳で建築をアートに見立てて敷地内を散策。
すると、至るところに張り巡らされたマジックミラーに込められた設計の意図が分かってきたような・・・
- 瀬戸内海や周囲の緑を借景として取り込んで広大な自然テーマパークのように見せたい
- 隣の敷地にあるありふれた倉庫群や商業施設の無粋な(失礼!)看板群を見せたくない
見る角度によっては残念な街の景色が映り込むのですが、基本的には敷地内は(マジックミラーだけに)魔法の国の如き非日常感に溢れています。
名残惜しいですが出発のとき。
瀬戸内海を望む堤防からの遠景で見納めとします。
敷地外に出て冷静になるとやけに派手な倉庫に見えなくもないですが、未だかつてこんなにポップでブッ飛んだ建築は見たことがありません。
坂さんが浮き浮きと心から楽しんで設計したであろうことが想像できます。水盤上の展示室は水に浮かして動かせるらしいですし。
別記事「Shonai Hotel Suiden Terrasse|坂茂の田んぼホテル~建築徘徊32」では坂さんのことを「動く建築家」と紹介しました。
動く建築家がとうとう動く建築を実現です。
今や飛ぶ鳥を落とす勢いの坂さん。
次はどんな建築で私たちを驚かせ感動させてくれるのかとても楽しみです。
もしや宇宙船のように空に浮く建築とか!?
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基本情報
下瀬美術館
設計:坂茂
竣工:2023年
場所:広島県大竹市
訪問:2025年4月
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